VAR(ビデオアシスタントレフェリー制度)はサッカーをどう変えるのか?
Guten Tag!!みなさん、こんにちは。
世間はワールドカップでまさにサッカー一色ですね。
私が生活するドイツは、まさかのGL敗退。
「優勝国でW杯を見れるか!?」と少し期待していたので、残念です…
そんな中、日本代表は見事にGLを突破し、ベルギー戦でも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。
ドイツでも、たくさんの人から「日本は良い試合をしたね」と言ってもらいました。
さて、今回はそんなW杯で初めて導入されたVAR(ビデオアシスタントレフェリー制度)をテーマに、記事を書いて行こうと思います。
まず、なぜこの記事を書こうと思ったかというと、W杯を観ていて、ビデオデバイスによって判定をするシーンが目立ち、個人的には少し違和感を感じたからです。
VARは、日本で行われた2016年のFIFAクラブワールカップで、FIFA主催大会として初めて導入されました。
その大会の試合後、レアル・マドリードのジダン監督は、「すべてがクリアになることは良いことかもしれないが、混乱が起きる気がする。慣れるしかない」と語っています。また、同じくレアル・マドリードのルカ・モドリッチ選手も「好きではない。試合に集中したい」と語っています。
今回のW杯を観ていて、彼らや私のように、違和感を感じた人は少なからずいるのではないでしょうか?
1. VARとは??
まず、VARについて簡単に説明します。
VARは Video Assistant Referee の略で、ゴール・ライン・テクノロジー(GLT)と並んで、サッカーの試合において、テクノロジーを活用して審判を助けるサッカーの審判補助システムの一つです。
具体的には、誤審が疑われる判定があった場合に、モニタールームで試合をチェックするビデオアシスタントレフェリーが、無線を通じて主審に助言をすることができるというものです。
また、必要があれば、ピッチ脇に設置されたモニターを使い、主審自らプレーを確認することができます。
ただし、VARを用いる対象となるのは、以下の4つのプレーに限られます。
1.得点に関わるプレー
2.ペナルティキック(PK)に関わるプレー
3.退場(レッドカード)に関わるプレー
*イエローカードに関わるプレーは対象外
4.間違った選手への警告・退場判定の確認
2. VARの歴史
FIFA主催の大会では、日本で行われた2016年のクラブワールドカップで初めて導入されました。
ワールドカップでは、今回のロシア大会が初めての導入となります。
FIFA主催大会以外でも、ブンデスリーガ(ドイツ)やセリエA(イタリア)では、すでに導入されており、近い将来、Jリーグでも導入されることになると考えられますが、今はまだ準備の段階のようです。
3. 今大会におけるVAR
FIFAの集計によると、今大会(2018年ロシアワールドカップ)の1次リーグ48試合で335件のプレーがVARの対象となりました。
主審が自ら映像を確認したのは17件で、そのうち14件の判定が覆りました。
また、7件ものペナルティキック(PK)がVARによって認められ、今大会でのPKは24件と、まだ決勝トーナメントを残しているにも関わらず、これまでの最多記録である18件を優に越しています。
また、アディショナルタイムの平均は、前ブラジル大会の5分19秒から6分15秒へと延び、グループFの最終節ドイツvs韓国の例では、後半ロスタイムが9分となり、2得点が生まれるという異例の展開となりました。
4. VARのメリット
4-1. 誤審を防ぎ、フェアな判定が下せる
VARのメリットは、何と言ってもすべてが明確になり、多くの誤審が防げるということです。
近年、ますますスピードアップしているサッカーの展開において、たった4人の審判団で、フィールド上の22人の選手たちのプレーを隈無く観察し、判定を下すということはかなり難しくなってきています。
また、カメラ技術などテクノロジーが進歩し、観客がプレーを再度確認できるようになったことで、審判に対する不満や批判が増えてきました。
そんな中で、プレーの状況を一番把握しなければならない審判がプレーを見返すことができないというのは、確かにおかしなことだったのかもしれません。
VARを使えば、明らかな誤審を防ぐことができ、よりフェアな判定ができるようになると考えられます。
これによって選手やサポーターも納得感を得られたり、審判に対する批判を防げるという点でもポジティブな効果が考えられます。
4-2. 試合の高潔性の改善
また、VARは試合の高潔性を改善するという点でも期待されています。
例えば、シュミレーション(ファールをもらうためにわざと倒れたりすること)は通用しなくなりますし、審判の目の届かないところで行われた不正行為も罰することができます。
このことはフェアプレーとされている日本にはプラスに働くかもしれません。
5. VARの課題
前項で、VARのメリットについて書きましたが、一方でまだ課題も残されています。
5-1. スピード感
VARの導入が検討されていた時に、特に議論されていたのがこのテーマについてです。
主審が直接モニターを通じてプレーを確認するためには、どうしても一度試合を止めなければなりません。
そうすると、サッカーの魅力の一つである”スピード感”が失われてしまうのではないかという懸念があります。
確かに、何度もなんどもビデオ判定となると、見ている側としては少し退屈感を覚えると思いますし、数プレー後にPKなどの判定がされると少し変な感じがします。
5-2. コスト
VARを導入するとなるともちろん、カメラを設置しなければなりませんし、ビデオアシスタントレフェリーの人件費もかかります。
Jリーグの全ての試合で導入するとしたら、どれだけのコストがかかるのか、計り知れません。
5-3. ルールの統一化
かといって、「J1だけ導入する」というのはどうなのかと思います。
現時点で、育成年代の試合や地域のサッカーリーグでVARが導入されるということはまずないでしょう。
私は、同じ競技である以上ルールは同じである必要があると思います。
育成年代の試合や地域リーグへの導入は無理だとしても、せめてプロリーグでは統一してほしいものです。
6. VARによってサッカーはどう変わるのか
6-1. ファールの基準が厳格化
リアルタイムではファールではないと思っても、後からスローで見返すとファールだったということが良くあります。
特に、ペナルティエリア内でのプレーに対する判定は慎重にならざるを得ません。
例えば、ロシアワールドカップのイランvsポルトガルでポルトガルがハンドでPKを取られたシーン。後からスローで見返すと、確かに手に当たってはいますが、あれをリアルタイムで笛を吹く審判は少ないのではないでしょうか。
このように、VARの導入により、特にペナルティエリア内での判定において基準が厳格化されると私は考えています。
6-2. 戦術の変化
ファール基準が厳しくなることによって、戦術も変わってくると思います。
チーム戦術としては、いかにペナルティエリアに侵入させないか(あるいは、侵入できるか)が以前よりも重要になってきます。
個人戦術としては、いかにノーファールでディフェンスできるかが重要になり、ディフェンスにとっては対応がかなり難しくなるでしょう。
個人的には、ゴール前での激しい攻防が好きなので、それが薄れてしまわないよう願っています。
6-3. ”一点の重み”が軽減
サッカーは、スポーツの中で、最も得点が入らないスポーツの一つです。
だからこそ、点が入った時の盛り上がりや感動があります。
VARの導入により、得点は間違いなく増えます。
得点がたくさん入ることは、観客にとって良いことなのかもしれませんが、これによって、”一点の重み”が軽減され、得点時の感動が薄れてしますのではないかと私は少し心配しています。
6-4. 商業的観点から
サッカーは、野球やバレーボールなどとは違い、時間が決められています。
時間が決まっていると言うことは、テレビの放送やコマーシャルといった商業的な観点においてサッカーの魅力の一つでした。
しかし、VARの導入により、アディショナルタイムに大きな開きが生まれます。
大きなといっても、2、3分程度なのでそれほど大きな問題ではないとは思いますが…
6-5. サッカーが機械化される??
「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする」という、デットマール・クラマーの有名な言葉がありますが、この言葉の中には、「理不尽なこともあるけれど、相手をリスペクトし、それを受け入れることも必要」という趣旨の考えが含まれているように感じます。
審判も人間なので、ミスもします。最近は審判に対して、猛烈に抗議をする選手が増えたような気がします。
この要因の一つとして、以前は覆ることが滅多になかった判定が、VARの導入により、覆せるようになったということがあげられると思います。
抗議をして、判定が覆るのであれば、選手や監督が抗議をするのは当たり前です。
しかし、「審判をリスペクトして、文句は言うな」という教育を受けてきた私には、このことはよく写りません。
機械に頼って、全てを正しい判断に塗り替えるということは必要なのでしょうか?
理不尽な判断だったり、シュミレーションだったり、全てを含めて”サッカー”だと思って育って来ましたし、その”サッカー”を通じて、人間として成長することもできると思っていたので、VARの導入には少し違和感を覚えます…
7. まとめ
VARに関しては賛否両論あります。
私は、賛成か反対かと問われれば反対です。
理由は、サッカーが機械化されてしまい、技術やパワーだけが重視されるサッカーになってしまうような気がするからです。
しかし、技術の進歩により、観客がプレーを再確認できるという現実がある以上、審判もそれを利用しない手はないとは思います。
VARはまだ新しく、十分でないところがあります。
これから様々な議論を重ねて、ベストな形でサッカーに取り込まれることを願っています。
今回も読んでいただきありがとうございます。
みなさんも意見があれば是非お聞かせください。
それでは、さようなら。Tschüs!!